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東京高等裁判所 平成11年(ネ)35号 判決 1999年11月25日

控訴人(原告) 株式会社さくら銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 松尾翼

同 森田貴英

同 片岡朋行

同 村上義弘

被控訴人(被告) 株式会社Y

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 井上庸一

同 川口和子

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し、金六九九二万七五九七円及び内金六六七一万六一六六円に対する平成九年一月一五日から支払済みまで年一四パーセントの金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二本件事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第二記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

原判決三丁裏一二行目の「融資」の次に「(以下『本件ビル建築資金融資』という。)」を加える。

二  当審における控訴人の主張

1  本件保証契約が締結された当時、訴外C(以下「訴外C」という。)が被控訴人の筆頭株主であって訴外D(以下「訴外D」という。)とその共同代表取締役であると共に、訴外会社にあっても訴外E(以下「訴外E」という。)と共同代表取締役であったし、訴外E、訴外Fらも両会社の役員を兼ねており、株主を共通にしていた。そのことから明らかなように、両会社とも訴外Cの強い影響力の下にあって、一体的な関係にあった。

したがって、両会社は、相互の信用を補完しあって本件銀行取引をしたものであって、本件取引約定は、本件ビル建築資金融資のみを目的として締結されたものではなかった。被控訴人は、控訴人と訴外会社が銀行取引を継続する限りは、本件保証契約に基づく包括根保証を続ける意思であった。

2  訴外会社が控訴人からの本件ビル建築資金融資を受けてそれを被控訴人に転貸したのは、実質的には訴外会社による保証付きで被控訴人に対して実行したのと同視し得るものであって、通常の迂回融資とは異なる。

3  被控訴人は、訴外会社の事業内容や営業状態を十分知悉していたにもかかわらず、本件ビル建築資金融資の債務が弁済された後にも本件連帯保証を解約する正式な手続は何らとっていない。

4  被融資者と根保証人が個人企業会社とその代表取締役のように密接な関係にあるときは、控訴人は、個々の融資に際してその保証人の意思確認をすることはしていないが、本件も同様であった。

5  控訴人は、訴外会社の経営が悪化していたことを知らずに本件各手形貸付を行ったもので、かかる場合にあっては包括根保証人の責任制限の減縮はされるべきではないし、控訴人の被控訴人に対する保証債務の履行請求が信義則に違反するものではない。

6  控訴人と被控訴人との間には、本件連帯保証は本件ビル建築資金融資を目的とするもので、同融資が完済されたときには本件連帯保証が終了する旨の合意は存しなかったし、また、本件連帯保証を解除する旨の合意もない。

7  被控訴人は、本件連帯保証を解約する機会があったにもかかわらず、その解約権を行使していないのであるから、控訴人の本件請求は信義に反するものではない

三  当審における被控訴人の主張

1  被控訴人と訴外会社の関係は、訴外Cの婿養子であった訴外Eが被控訴人の代表者である訴外Dの長男であったという関係から生じたものであって、その関係はいずれも名目的なものに過ぎないものであった。特に訴外Cが死亡した昭和五六年三月一〇日以降はその関係は事実上終了している。

2(一)  本件連帯保証契約は、被控訴人が訴外会社の協力をえて本件ビル建築資金融資を実質上控訴人から受けることを実現することをその目的(以下「本件目的」という。)としてなされたものである。

そして、昭和五三年一二月二六日に被控訴人が控訴人から直接貸付を受けてそれにより本件ビル建築資金融資債務を完済したことにより、右契約関係はその目的を達成したことにより終了した。

(二)  控訴人が本件目的を認識していたことは、本件ビル建築資金融資によって被控訴人がaビルを完成させたときは、控訴人のために同ビルに抵当権を設定することが、控訴人、被控訴人、訴外会社の三社間に当初から予定されていて、本件ビル建築資金融資に当たっては被控訴人の資力がその引き当てとされていたことからも明らかである。

(三)  本件ビル建築資金融資がなされた当時、訴外会社はいわゆる無借金経営がなされていて、控訴人に対しても預金取引があっただけであって、その後も借入をする予定はなかった。控訴人もそれを了知していた。

(四)  訴外会社の代表取締役が訴外Cから訴外Eに代わったころ、訴外会社の右無借金経営の方針が転換されて、控訴人から昭和五六年ころ初めて製品(ランドセル)製造のための短期融資を毎年受けるようになり、平成元年には配送センター建設のための長期借入をしたものであるが、控訴人は、訴外会社に対する右貸付に際しては、本件連帯保証をその保証としたことはなかった。そのことからも控訴人は、本件連帯保証は本件目的達成により終了していたことを承認していたものである。

控訴人は、訴外会社が平成九年に和議を申立てたことから、被控訴人に対して、本件連帯保証の契約書の返還をする等の解除の手続がされていないことを奇貨として、本件請求に至ったもので信義に反するものである。

第三当裁判所の判断

一  控訴人は、昭和四六年三月二九日、訴外会社(当時の商号は株式会社b商店)との間で、銀行取引契約である本件取引約定を締結して、本件ビル建築資金融資である金三五〇〇万円を貸し付けたこと、被控訴人は、昭和四六年三月二九日、訴外会社が本件取引約定に基づく取引によって控訴人に対して負担する一切の債務につき本件保証契約を締結したことは当事者間に争いがない。

また、証拠(甲六の一、七ないし九)によれば、控訴人は、訴外会社に対し、手形貸付の方法で、平成九年五月二七日から平成九年七月三一日までの間に四回に亘って合計八五〇〇万円を貸付(以下「本件各手形貸付」という。)をしたが、訴外会社は、平成九年九月四日、東京地方裁判所に対して和議の申し立て(平成九年(コ)第二一号)をして倒産したこと、控訴人の訴外会社に対する平成九年一月一四日現在、債権残額合計は六九九二万七五九七円にのぼっていたことが認められる。

二  本件ビル建築資金融資及び本件保証契約が締結された経緯は次のとおりである。

<証拠省略>並びに弁論の全趣旨によれば、本件保証契約締結の経緯については、次の事実が認められる。

1  被控訴人は、訴外Dを共同代表取締役の一人として昭和四五年一〇月一四日設立された、貸しビル業等を目的とする会社である。被控訴人は、その設立当初から、賃貸を目的としたaビルを新築する計画を有していたが、控訴人に対し、aビル建設資金の融資を申し込んだところ、設立後間もないことから信用状態が確定できないとして融資を断られた。

2  そこで訴外Dは、同人の長男の養親である訴外会社代表者に依頼して、経済的信用力のある訴外会社を主債務者として控訴人から本件ビル建築資金を借り入れて、それを訴外会社から被控訴人が借り入れることとするが、被控訴人は、訴外会社の本件ビル建築資金の借り入れの際には、訴外会社の控訴人に対する債務を連帯保証し、さらにaビルの完成後は同ビル上に控訴人のために抵当権を設定することとした。そこでその旨を当時の控訴人の担当職員に説明して、再度、訴外会社名義で控訴人に融資を申し入れた。そこで、控訴人は、本件取引約定と本件連帯保証契約の各締結に応じて、本件ビル建築資金融資が実行された。そして、右融資当日、訴外会社から被控訴人に対して金三五〇〇万円が、本件ビル建築資金融資と同一の利息、弁済期、返済方法等の貸付条件で貸し付けられた。その結果、被控訴人が追加の運転資金を必要とした昭和四六年一二月一九日及び昭和四七年五月三一日にも、本件ビル建築資金融資と同様の方法で、控訴人から訴外会社に、同社から被控訴人に対し、合計金一三八〇万円が貸付けられた。

3  被控訴人は、本件ビル資金融資等に対する返済を訴外会社を介して控訴人に対して継続していたが、昭和五三年ころには、被控訴人がaビル及びその敷地に新たに控訴人に対する極度額金二〇〇〇万円の根抵当権を設定して、控訴人から約金二〇〇〇万円の融資を直接自己の名義で受けたうえ、控訴人及び訴外会社の了承を得たうえで、そのうち約金八三〇万円をもって訴外会社名義で借りていた本件ビル資金融資等の残債務全額を、同年一二月二七日に直接繰り上げ返済した。そのため、以降は、被控訴人と控訴人とは、直接の取引関係にたって、その貸付、返済等がなされるようになった。

4  他方、本件ビル資金融資がなされた当時ころから昭和五六年初めころまでに訴外会社の代表取締役であった訴外Cは、いわゆる無借金経営をその方針としていた。そのため、訴外会社と控訴人間には預金取引以外はなく、訴外会社は控訴人から本件取引契約に基づいて金員を借入れる予定はなかった。

5  ところが、訴外会社の代表取締役が訴外Cから訴外Eに代わった昭和五六年始めころ、訴外会社はその無借金経営の方針を転換して、控訴人から製品(ランドセル)製造のための短期融資(概ね金六〇〇万円ないし金三五〇〇万円程度)を毎年春に受けるようになった。そして、平成元年には、それとは性質の異なる訴外会社の配送センター建設のための長期借入としての本件各手形貸付けを受けた。

6  しかしながら、控訴人は、訴外会社に対する右のいずれの貸付についても、また、本件各手形貸付に際しても、被控訴人に対し、右貸付けについての通知をするとか、改めてその保証意思を確認することは一切しなかった(控訴人は、本件各手形貸付に際して、実際にはその担保として被控訴人の連帯保証を考慮してその貸付けをしたか否かを客観的に示す融資決定に至る関係書類提出することを拒否し、その事実関係を明らかにしなかった。)。

三  右の事実によれば、本件ビル建築資金融資の貸付けは実質的には被控訴人のためにする便法として訴外会社宛てにしたものであることは控訴人も了知していたもので、しかも本件取引約定の当事者である訴外会社は前記のとおり無借金経営を方針にしていることから、本件取引約定に基づいて控訴人から借り入れを起こすことも予定されていなかったこと、これに対して、被控訴人は、本件ビル建築資金の他にも控訴人からの借入れの必要があった昭和五三年ころには、本件取引約定を利用して訴外会社名義を使用して控訴人からの借入れをする便法をとらずに、控訴人の同意を得て、被控訴人がaビル及びその敷地に新たに控訴人に対する根抵当権を設定して、控訴人から直接融資を受け、その一部を以て本件ビル建築資金融資の残債務も自ら弁済して清算したこと、そのため、それ以降は、被控訴人において、本件取引約定に基づく便法の取引の必要はなくなったため、前記昭和五六年に訴外会社の経営方針の転換がなされるまで、本件取引約定に基づく貸付け等はなされることはなかったのであるから、昭和五三年一二月二六日に被控訴人が控訴人から直接貸付を受けてそれをもって本件ビル建築資金融資の債務を完済したことにより、本件取引約定を利用して訴外会社名義で被控訴人が控訴人から融資を受ける便法的取引は目的を達成し終了したことになり、本件連帯保証契約も目的終了により消滅したものと認めるのが相当である。また、控訴人が本件取引約定書が形式上残存し、本件連帯保証も残存したこと並びに被控訴人が本件保証契約について解約の手続をとらないで放置していたことに藉口して、右便法的取引とは別異の訴外会社の実質的債務について連帯保証責任を追及するのは信義則に照らしても認められない。

なお、控訴人は、「被控訴人と訴外会社は、その取締役や株主の構成において密接な関係があり、相互に信用を補完しあって本件銀行取引をしたものであって、被控訴人は、訴外会社が本件取引約定に基づいて控訴人から本件各手形貸付等の貸付けを受けることを了知していたし、それを承認していたもので、被控訴人は、控訴人と訴外会社が銀行取引を継続する限りは、本件保証契約に基づく包括根保証を続ける意思であった。」旨主張しているが、<証拠省略>によれば、被控訴人と訴外会社間には、株主や取締役に共通であった時期があったことが認められるが、右各証拠によれば、それらは訴外Eが訴外Cの婿養子であったという関係からする名目上のものに過ぎず、両社の営業及び経営は相互に独立して行われていてその間に関連は存しないこと控訴人も訴外会社への貸付の際に被控訴人の経営状態や資産状態など信用の変化等について調査するような言動はしなかったことが認められる。そして、被控訴人が、倒産の数か月前の間に訴外会社が控訴人から本件のような多額でかつ集中的な各手形貸付を受けることについて承認し、又は、これを了知して黙認していたことを認めるに足りる客観的な証拠はない。甲三八(Gの陳述書)のうち控訴人の右主張に沿う部分は採用できない。

第四結論

以上によれば、控訴人の本件請求は理由がないので棄却すべきである。

よって、原判決は相当であって本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 慶田康男 廣田民生)

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